株を売って損失が出たあと、「翌年は取引していないから、申告も不要」と考えていませんか。上場株式等の損失を翌年以後に繰り越す特例では、譲渡がなかった年も、繰り越すための申告が必要です。損失が出た年だけ申告して終わり、ではありません。国税庁 No.1474で、この継続要件が示されています。
ただし、損失がある人全員に同じ申告義務が生じる、という意味ではありません。「特例を使うための手続き」と「源泉徴収ありの特定口座で申告不要を選べること」を分けて、口座・損失の年・申告の影響を確認しましょう。
最初に確認するのは「含み損か、売却損か」「NISAか」
この記事は、個人が証券会社などを通じて行う、通常の課税口座の上場株式等の売却を中心に説明します。上場株式等には公募投資信託なども含まれますが、非上場株式、相対取引、FXなどの損失を同じ表にまとめて扱うことはできません。
| いまの状態 | まず確認すること |
|---|---|
| 保有中の評価額が下がっている | 通常の売却損の繰越控除は、含み損の表示だけでは使えない。売却の有無を確認する。 |
| 課税口座で売却して損失が出た | 取引区分、年間の利益との相殺、対象となる配当等を確認し、控除しきれない損失を整理する。 |
| NISA口座で売却して損失が出た | この損益通算・繰越控除の対象外。課税口座の損失と合算しない。 |
| 過去の損失を繰り越しており、今年は売買ゼロ | 申告の継続と残りの適用年を確認。配当等があれば「所得もゼロ」とは限らない。 |
売却による所得は、売却代金から取得費や委託手数料等を差し引いて計算します。証券画面に出る評価損と、税務上の年間の譲渡損失は同じとは限りません。計算の基本は国税庁 No.1463、NISAの対象外の扱いはNo.1474を確認してください。
NISAで売却した後の非課税保有限度額の再利用は、損失繰越とは別の話です。混同しやすい場合は、NISAを売却したときの枠の再利用も分けて確認できます。
同じ年の損益通算と、翌年以後の繰越控除は別
まず、その年の上場株式等の譲渡益と譲渡損を整理します。対象となる上場株式等の配当等との損益通算をしても残る損失について、翌年以後の繰越控除を検討します。「ある銘柄で30万円損した」ことと「30万円を繰り越せる」ことは同じではありません。
ここで扱う通常の売却損を、給与所得などから自由に差し引くことはできません。また、上場株式等の損失を一般株式等の譲渡益と相殺することもできません。区分ごとの扱いは国税庁 No.1465で確認できます。
配当と通算するときも条件があります。対象となる上場株式等の配当所得は申告分離課税を選んだものに限られ、総合課税で申告した配当とは通算できません。大口株主等に関する除外もあるため、「配当なら何でも使える」とは考えないようにします。国税庁 No.1331が申告方法ごとの違いを整理しています。
源泉徴収ありの特定口座でも、繰越の適用には申告が必要
源泉徴収ありの特定口座では、口座ごとに申告するか申告不要とするかを選べます。一方、他の口座との損益の相殺や、この繰越控除の特例を使う場合には確定申告が必要です。金融機関が口座内の計算をしていても、翌年以後への繰越手続きまで自動で済むわけではありません。
注意したいのは、その源泉徴収口座の譲渡損失を申告する場合、同じ口座に受け入れた対象の利子等・配当等も併せて申告する点です。「損失だけ申告し、同じ口座の配当は申告不要」と切り離すことはできません。別の口座まで一律に全部申告するという意味ではなく、口座ごとの選択と、この組合せの条件を確認します。出典:国税庁 No.1476 特定口座制度。
「3年間」は損失年の翌年から。取引ゼロ年も数える
繰り越せるのは、損失が出た年の翌年以後3年間です。損失年の申告に加えて、その後の年も連続した申告が必要になるため、「損失年を含めて3回出せばよい」という数え方ではありません。取引を休んだ年があっても、3年間の期間が止まるわけではありません。
次は、2026年に生じた、損益通算後も残る対象損失30万円だけを管理する仮例です。現行の制度が続き、必要な申告を連続して行い、ほかの損失・対象所得はないものとします。金額は税金の還付額ではありません。
| 所得の年分 | 仮の取引・所得 | 2026年の損失の管理 |
|---|---|---|
| 2026年(損失年) | 通算後の未控除損失30万円 | 損失年分を申告し、翌年へ30万円を繰り越す。 |
| 2027年(翌年・1年目) | 売買なし、対象配当等もなし | 控除額0円、残り30万円。取引ゼロでも繰越のための申告をする。 |
| 2028年(2年目) | 対象の譲渡益10万円 | 10万円を控除し、残り20万円。 |
| 2029年(3年目) | 対象の譲渡益15万円 | 15万円を控除。残る5万円は、2026年の損失として2030年へ繰り越せない。 |
表の年は「所得の年分」です。たとえば2026年分の通常の確定申告は翌2027年に行うため、提出した年と損失が出た年を取り違えないようにします。複数年に損失がある場合は、発生年ごとに別の行で残額を管理し、最後に売買した年から数え直さないことが大切です。期間と継続要件の根拠は国税庁 No.1465・No.1474です。
申告書だけでなく、付表と前年からの残額を確認
損失年には、「確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)」と「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」を添付した申告が必要です。その後も付表を添付して連続して申告します。繰越控除を使う年は、一般株式等または上場株式等の譲渡所得等があれば、計算明細書も必要です。詳しい添付条件は国税庁の手続き欄で確認してください。
手元には、該当年の年間取引報告書などの取引資料と、過去の申告書・付表の控えをそろえます。特に付表の控えは、どの年の損失がいくら残っているかをつなぐ資料になります。国税庁の令和7年分の記載例(事例2・14〜15ページ、PDF)でも控えの保存が案内されています。記載例は仕組みの理解用とし、実際の申告には対象年分の様式・作成画面を使ってください。
還付だけで決めない:国保・税法の扶養・健康保険の扶養
申告するか検討するときは、税額だけでなく、加入制度や家族の控除への影響も確認します。同じ「所得」という言葉でも、繰越控除の前を見るのか、後を見るのかが異なります。
| 確認先・制度 | 混同しないポイント |
|---|---|
| 国民健康保険料:住んでいる自治体 | 申告した株式所得等が保険料の計算に入る場合がある。損益通算・繰越控除後の所得を確認する。 |
| 税法上の配偶者・扶養親族等の所得要件:税務署等 | 合計所得金額は、上場株式等の損失の繰越控除をする前の金額で判定する。 |
| 会社の健康保険の被扶養者:勤務先・加入保険者 | 税法の扶養とは別制度。見込み収入等による認定基準を確認し、税額だけから判断しない。 |
たとえば横浜市は、源泉徴収ありの特定口座の所得等について、申告不要とすれば国保料の算定対象に含めず、申告した場合は損益通算・繰越控除後の所得を含めると説明しています。税金が減っても国保料の増加が上回る場合がある一方、申告したら必ず保険料が上がるという意味でもありません。自分の自治体で試算・確認しましょう。出典:横浜市の国民健康保険の案内。
税法の扶養等で使う「合計所得金額」は、同じ年の損益通算後であっても、損失の繰越控除前の金額です。繰越控除で税額が小さくなったことだけを理由に、扶養の所得要件も満たすとは判断できません。国税庁の専門用語集で定義を確認できます。健康保険の被扶養者は別の認定で、日本年金機構の案内では年間の見込み収入等による基準が示されています。株式所得の個別の扱いは加入保険者へ確認してください。
また、令和6年度の住民税(令和5年分の所得税)以降は、対象となる上場株式等の配当・源泉徴収口座の譲渡所得について、所得税と住民税で異なる課税方式を選べません。「所得税で申告し、住民税だけ申告不要にする」という以前の説明を、そのまま使わないようにします。出典:横浜市の課税方式統一の案内。
申告を忘れた年があるときは、過去の書類を持って相談
損失年を申告していなかった、途中の取引ゼロ年の申告が抜けた、すでに別の内容で申告した、といった場合は、期限後申告や過年度の手続きで扱えるかを税務署・税理士へ個別に確認してください。この記事だけで「何年前でも復活できる」「一度抜けたら絶対に無理」とは判断できません。配当の申告方法にも、申告後に自由に選び直せない取扱いがあります。国税庁 No.1331も併せて確認してください。
相談時は、①損失が出た年、②口座の種類、③各年の売却損益・配当等、④提出済みの申告書と付表、⑤国保や扶養など確認したい制度、を整理して持参すると、確認事項を伝えやすくなります。取引ゼロの年も空欄にせず、「売買なし・配当の有無・申告済みか」を記録しておくのが実用的です。
損失繰越は、損失額がそのまま返金される仕組みではなく、将来の利益や還付を保証するものでもありません。まず過去の申告と残額を確認し、申告による税・保険・扶養への影響を分けて判断しましょう。
情報確認日:2026年10月28日。国税庁タックスアンサーは令和8年4月1日現在の法令等に基づく掲載内容を参照しています。適用の可否や必要書類は個別事情・対象年分によって異なるため、申告時の最新案内を確認してください。

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